FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

女郎蜘蛛/パトリック・クェンティン

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 もう十年以上も前、高城ちゑの訳で『女郎ぐも』というタイトルだったときに、本書を読んだはずだが、情けないことになにも思えていない。シリーズ八作目にして、最終巻である。川出正樹の解説にあるよう、ピーター&アイリスが退場する代わりに、新たなる名探偵たるニューヨーク市警の警部補ティモラシー・トラントが登場する。
 改めて読み返してみて、「こんなにピーターとアイリスの関係が危うくなっているなんて」と思ったが、よくよく思い返してみると、戦争で精神を病み、夫婦が別居していたシリーズ六作『巡礼者パズル』のときの方がよほど危うかった。
 ただし今回も気が抜けない。
 これまでも多くの悪女が登場してきたシリーズだが、この『女郎蜘蛛』というタイトルから察しがつくよう、登場人物の中の悪女含有率はなかなかのものだ。しかも、最大の悪女の輪郭はなかなか掴むことができない。
 実母が手術をするため、愛妻にして人気女優のアイリスがジャマイカに旅立った。
 演劇プロデューサーのピーターは、偶然出会った作家志望の若い娘ナニーに関心を抱く。ピーターに下心はなく、ただの親切心でなにかと面倒を見てやっただけだが、しかしナニーがピーターの寝室で自殺したとあっては、その関係が誤解されるのはやむを得なかった。帰国したアイリスでさえ動揺を隠せない様子だった。
 ピーターは潔白を証明するため、調査を開始する。ナニーの死は、自殺だったのか、他殺だったのか。そしてナニーは本当はどういう女性だったのか。
 ページをめくるごとにナニーは新しい顔を見せ、そして容疑者と思しい人間が次々と現れる。
 物語はスピーディーに展開され、決して飽きさせない。登場人物の誰をもうさんくさく見せるテクニックには脱帽。
 ピーター&アイリスの夫婦探偵が活躍する最後の作品なのか、という感慨以外に読了後に深くなにかが残るというタイプの作品ではないが、それでも読んでいる最中はとても楽しかった。
 良くできたサスペンス。