FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密/トマス・H・クック

 ミステリ映画では、一月に「2014年マイベスト10映画」に入るだろうスペインのミステリ映画、オリオル・パウロ監督『ロスト・ボディ』(http://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/20140121)と出会ったが、二月に「2014年マイベスト10ミステリ」に入るであろう、作品と出会った。名手トマス・H・クックの新作である。相変わらずとびきりうまい。
 同じく早川書房から出版されている『ローラ・フェイとの最後の会話』、『キャサリン・カーの終わりなき旅』に続いて邦訳された「人名シリーズ」(と呼んでいいのか?)の邦訳三作目である。
 『キャサリン・カーの終わりなき旅』はこのシリーズ、というよりトマス・H・クックの著作全体の中でも異色作だったが、この『ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密』は『ローラ・フェイとの最後の会話』とよく似た手触りを持っている。事件があり、人の生命が失われており、解かれていない謎があり、語りの大部分が主人公の追憶だ。文藝春秋から出版されている記憶シリーズを思わせる。
 作中で、印象に残るシーンとして゛ザチェム゛という言葉が紹介される場面がある。前後の会話から察しておそらくロシア語で、「なぜ」という意味だ。
 作中にはいくつもの「なぜ」が飛び交い、物語を推進させていく。
 なぜ、幼馴染の親友、才能ある作家だったジュリアンは自殺したのか。
 なぜ、アルゼンチンの女性ガイド、マリソルは失踪したのか。
 なぜ、ジュリアンはマリソル失踪の真相解明に異様に熱心だったのか。
 すべての゛ザチェム゛の理由が分かったときには、謎が解明するときの清々しさと同時に、それに倍する苦々しさに襲われる。
 トマス・H・クックウィキペディアで示されているリストにある、゛The Quest for Anna Klein゛も早く邦訳されますように。
 傑作。

トマス・H・クックウィキペディアはこちら。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%83%BBH%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%83%E3%82%AF

ローラ・フェイとの最後の会話 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 17-1)

ローラ・フェイとの最後の会話 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 17-1)

↑これまでに訳された人名シリーズ
ロスト・ボディ DVD

ロスト・ボディ DVD

↑傑作ミステリ映画