FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

黒い壁の秘密/グリン・カー

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 失礼な言い方ながら予想していたより、ずっと楽しめた。グリン・カーは未読の『マッターホルンの殺人』から「山岳絡みのミステリを書く作家」という漠然としたイメージのみを抱いており、勝手ながら本格ミステリよりも冒険小説に近い作風だと考えていた(実際に『黒い壁の秘密』より以前のアバークロンビー・リューカーものの三作は本書よりもずっと、冒険小説風、スパイ小説風なんだそうだ)。
 『黒い壁の秘密』は、楽しい本格ミステリにして、山岳小説である。なんと謎解き場面でも、謎解き場面が終わったのちにも、主人公達登場人物はちょっとした冒険をすることとなる。また主人公の職業ゆえシェークスピアの話も頻繁に出てくる。
 俳優兼舞台監督アバークロンビー・リューカー……戦時中は諜報員だった……は、公演を終え、湖水地方の小村に立ち寄った。山や岩場に囲まれた風光明媚な土地だ。数ヶ月前、クライミング中に若者が生命を失い、また眼前で若い女性の死に出くわす。わずかな不自然さから、その死が事故ではなく殺人だと気付いたリューカーは、警察と協力しつつ調査を始める。
 意外な犯人が楽しい(というと、皆さん分かってしまうだろうか)。
 山岳抜きでは成り立たないという壮大なトリックが味わいたいため、『マッターホルンの殺人』も読もうと頭の中でメモを取る。
 余談ながら解説で森英俊が国内外の山岳ミステリの筆者について挙げているが、大倉崇裕の名前が抜けている。

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