FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

罪作りな囁きを/コートニー・ミラン

罪つくりな囁きを (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

罪つくりな囁きを (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

 最近、ロマンス小説を読んでも読んでも感想を書きたくなるような作品に出会わず、残念に感じていたが、久しぶりにいい小説に出会った。主人公達のロマンスのみからず、彼らの家族との関係にも重きが置かれており、人によってはヒロインの家族に真剣な怒りを覚えるかもしれない。
 英国を舞台にしたヒストリカルである。
 父親である公爵の重婚が発覚して以来、上流階級の子女としての特権をすべて失い、庶子として扱われることとなったマーガレット。彼女は病みつき、気難しくなった父親の看病をしながら、父親の重婚を暴いた裕福な貿易商アッシュの弱みを探るべく、本来の立場を隠して使用人として近づいた。最終判決を数ヶ月後に控え、相続権を取り戻したい兄二人の指示だった。
 ヒロインの家族に恨まれているアッシュだが、彼は彼で必死だった。かつて宗教に狂った母親のために、彼と弟妹はひどく惨めな境遇にいた。妹は幼くして酷い死に方をしたが、生き延びた二人の弟のために貴族社会への切符が欲しい。
 やがて出会ったマーガレットとアッシュは惹かれ合う。そして恋愛によって、アッシュは過去や弟達との確執の一部から解放され、マーガレットは父親や兄達の操り人形から、一人の大人の女性へと変身するのであった。
 ヒロインの家族、特に社会的な地位を失い、病んで、献身的に世話をする娘にひどい暴言を吐く父親や、公爵という特権階級にしがみつくためなら、なりふり構わぬ二人の兄の生々しさが凄い(酷い)。それだけに、ヒロインの回想に出てくる亡母の穏やかさが救いだ。
 母親が突然宗教に狂ってしまったという、ヒーローの家族の事情がもっと知りたいので、ぜひともシリーズ続編を訳して貰いたい。
 良かった!