FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

わたしが眠りにつく前に/SJ・ワトソン

わたしが眠りにつく前に (ヴィレッジブックス)

わたしが眠りにつく前に (ヴィレッジブックス)

 作者と作品のことは全く知らないまま衝動買いしたのだが、当たりだった。二コール・キッドマン主演、リドリー・スコット製作で映画が撮影されるとのことだが、それもうなずける出来栄えだ。
 記憶を一日しか保全できない前向性健忘症のヒロインの心理の揺れ動きを巧みに描き出している。
 「わたし」ことクリスティーン・ルーカスは、異和感とともに目を覚ました。そして衝撃を受けた。鏡を映る自分が、一夜にして何十年も年を取っている。一緒に暮らしているという夫のベンが、クリスティーンの特殊な記憶障害について説明してくれる。しかし、自分の現在の境遇について、家族についての実感がない。やがて医師と名乗る男から、電話がかかってくる。そしてクリスティーンは、自分が記した日誌を見つける。そしてヒロインの記憶は断片的に蘇っていく。
 誰を信じたらいいのか。夫と名乗る男か、医師を名乗る男か。クリスティーンの心は、疑惑と不安にさいなまれるのだ。
 北川歩実の『透明な一日』他、日本の本格ミステリでしばしば見たこの記憶障害だが、寡聞ながら翻訳もののサスペンスで出くわしたのは初めてである(ただの記憶喪失ならば、本棚にあふれる以上に読んだ)。
 最後に辿り着いた結論はよくあるものだが、そこに至るまでの経緯がいい。幾つもの「?」が浮かんでは消え、読者を翻弄させる。
 映画も良きサスペンス映画となれ。
 秀作。