FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

雨上がりの恋人/エリザベス・ホイト

雨上がりの恋人(ライムブックス)

雨上がりの恋人(ライムブックス)

 久しぶりに出会った、大当たりのロマンス作家。プリンス三部作の第一作『あなたという仮面の下は』と第三作『せつなさは愛の祈り』を読んだが、どちらもとても面白かった。
 第三作『せつなさは愛の祈り』のあとがきで訳者も指摘していたが、このエリザベス・ホイトは男性とその人間関係を書かせてうまい作家である。ロマンス小説はむろん男女の恋愛を描く創作物なのだが、作者が女性、読者もおおもと女性であるためか、内容もヒロインの言動や心理描写に重きが置かれていることが多く、主役の一人であるヒーローでさえ、下手をするとヒロインの引き立て役、ただヒロインを愛し賛美するためだけに存在するなにかとなってしまうものがままある。
 しかし、エリザベス・ホイトのヒーローは違う。彼らの個性は際立っており、時折ヒロイン達さえ食ってしまうほどだ。脇役の男性陣もうまい。謎を秘めたヒーローと言えば陳腐なものだが、一個の人間として彼なりの事情を抱えており、色々な人間関係が背後に持っている。この『雨上がりの恋人』の土地差配人、ハリー・パイもそうだ。
 十八世紀英国。おばから領地を相続した伯爵令嬢ジョージナは、あるときから土地差配人ハリーと惹かれ合う。しかし、ハリーは使用人、二人の恋は身分違いのものであった。しかも近隣で起きる羊毒殺事件の犯人が、ハリーではないかと疑われているのだ。ジョージナは理由を知らないものの、近隣の貴族グランヴィル卿と、ハリーは互いを激しく憎悪していた。
 やはり身分こそ違うものの、ハリーと、グランヴィル卿の二人の息子は実は幼馴染みだった。長男トーマスは繊細柔弱な青年で、父親に愛されないことに苦悩していた。強く賢い次男ベネットは、父親からは目をかけられると同時に、その独立心と反発心から父親に憎まれていた。そしてベネットとハリーにはある秘密の繋がりがあり、ベネットはハリーを慕っていた。
 ジョージナとハリー、二人の道ならぬ恋と、連続する毒殺事件、この二つを軸に、様々な人間ドラマが絡む。
 切ない、激しい、色っぽいロマンス小説。肉親間での愛憎ドラマが好きな人にもお勧め。傑作。

あなたという仮面の下は (ライムブックス)

あなたという仮面の下は (ライムブックス)

せつなさは愛の祈り(ライムブックス)

せつなさは愛の祈り(ライムブックス)