FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

扉は今も閉ざされて/シェヴィー・スティーヴンス

扉は今も閉ざされて (ハヤカワ・ミステリ文庫)

扉は今も閉ざされて (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 カナダの作家のデビュー作。びっくりするほど面白かった。
 ある誘拐・監禁事件に巻き込まれたヒロインが、精神分析医にみずからの思いを告白するという体裁のサスペンス小説だ。
 ヒロインは、三十代初めのキャリアーウーマン、アニー。ある日、まったく存在を知らなかったストーカー男に誘拐され、山小屋に監禁され、地獄の生活が始まる。一年後、アニーはどうにかその監禁生活から脱出する。ところが、警察の取り調べが始まっても、彼女が<サイコ男>と心の中で呼んでいた犯人の正体がなかなか掴めないのだ。
 やがて、アニーは知りたくもなかった真相と向き合うこととなる。
 最初はただ、理知的で精神的に強いヒロインが、誘拐・監禁の恐怖と戦い、やがて脱出、心の平安を取り戻すまでのお話かと思いきや、「意外な結末」が待ち受けている。
 この「意外な結末」、ヒロインにはもちろん、読者にとっても醜悪極まりないものである。だが、相反することを言うようだが、この種悪極まりない真相が、かえってアニーを立ち直らせ、過去の一部を切り捨てるのに手を貸しているようにも見える。ラスト、ある人物の前で涙を流す場面では、清浄な印象さえ受ける。
 というわけで、嫌なこと満載のミステリなのだが、ヒロインの持つ精神の強靭さと、作品そのもの持つ技巧性が、一種の爽やかさを与えている。
 作者の二作目もずいぶんハードな設定のようだが、この作家のものなら読めるかもしれない。