写楽 閉じた国の幻/島田荘司
- 作者: 島田荘司
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/06
- メディア: 単行本
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中年男性の学芸員が己の不幸を延々と嘆く序盤……自分でも言ってるけど、あんたにもずいぶんと責任あるよ……で、こけそうになるが、その難所を乗り越えると、ずいぶんと面白い展開が待っている。
端的に言えば「写楽の正体」を考察するためのミステリである。権力者の娘と結婚したものの、義父や妻が描いた出世コースを外れ、一人息子まで事故で失った佐藤(この事故のくだりで日本人批判アリ)。息子の事故が裁判沙汰になるにつれ、相手方の手により、マスコミで佐藤のこれまでの浮世絵研究が批判されることとなる。佐藤は、起死回生を賭け、写楽の正体を暴き発表することを誓う。佐藤自身がひたすら「美人、才女、外国の血と生活が偉い」と褒め称える美人教授片桐の力を借りて。
前記の通り、佐藤の周辺の物語は思わず首を傾げてしまう出来だが、肝心の「写楽の正体」についてはずいぶんと面白かった。
当時の人間とははるかに掛け離れた、斬新な美醜の概念を持ち、しかも新人としては破格の待遇で、大々的に売り出された写楽。浮世絵については全くの門外漢の当方にも、「こんな人が本当に写楽だったら面白い」と思わせる。
序盤の難所を乗り越えて、ぜひお薦めしたい一作。