FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

写楽 閉じた国の幻/島田荘司

写楽 閉じた国の幻

写楽 閉じた国の幻

 中年男性の学芸員が己の不幸を延々と嘆く序盤……自分でも言ってるけど、あんたにもずいぶんと責任あるよ……で、こけそうになるが、その難所を乗り越えると、ずいぶんと面白い展開が待っている。
 端的に言えば「写楽の正体」を考察するためのミステリである。権力者の娘と結婚したものの、義父や妻が描いた出世コースを外れ、一人息子まで事故で失った佐藤(この事故のくだりで日本人批判アリ)。息子の事故が裁判沙汰になるにつれ、相手方の手により、マスコミで佐藤のこれまでの浮世絵研究が批判されることとなる。佐藤は、起死回生を賭け、写楽の正体を暴き発表することを誓う。佐藤自身がひたすら「美人、才女、外国の血と生活が偉い」と褒め称える美人教授片桐の力を借りて。
 前記の通り、佐藤の周辺の物語は思わず首を傾げてしまう出来だが、肝心の「写楽の正体」についてはずいぶんと面白かった。
 当時の人間とははるかに掛け離れた、斬新な美醜の概念を持ち、しかも新人としては破格の待遇で、大々的に売り出された写楽。浮世絵については全くの門外漢の当方にも、「こんな人が本当に写楽だったら面白い」と思わせる。
 序盤の難所を乗り越えて、ぜひお薦めしたい一作。