FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

螺旋/サンティアーゴ・パハーレス

螺旋

螺旋

 スペイン産の愉快な物語。
 編集者ダビッドは、上役から一つの指令を受けた。正体不明のベストセラー作家、トマス・マウドを探し出せと。トマス・マウド。SF大河小説『螺旋』で不朽の名声を築きあげるだろう天才。この作家の正体は、彼を世に送り出した編集者でさえ知らない。だがヒントは二つある。ある小さな村に住んでいることと、どうやら指が六本あるらしい、とのこと。
 自身トマス・マウドに魅了されているダビッドは、仕事の件は妻に隠し、夫婦でともにその村へと出かけた。だがその村で、六本指の人間は一人ではなかった。二人でも三人でも四人でもなかった。それなりにありふれた存在だった。
 トマス・マウド探しに翻弄されながら、「一体、誰がトマス・マウドで、なんのために正体を隠しているのか」といぶかるダビッドだった。
 六本指の持ち主で、それらしい男がいるたび、「あなたがトマス・マウドですね」と強引に迫り、ほとんどの場合散々な目に遭わされるダビッドが愉快……じゃない気の毒だ。
 この「ダビッドのトマス・マウド探し」に、麻薬を断ち切ろうという青年フランの物語が絡み、物語はさらに気持ちいいものへとなっていく。
 ラストも二重丸。
 皮肉でなくいいが、優れたエンターテイメントである。これはお勧め。