FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

夜色の愛につつまれて/リサ・クレイパス

夜色の愛につつまれて (ライムブックス)

夜色の愛につつまれて (ライムブックス)

 「ザ・ハサウェイズ」シリーズの第一作。タイトル通り、没落名門ハサウェイ家の兄妹を主役としたシリーズ。「壁の花」シリーズの第三作『冬空に舞う堕天使と』(これも傑作ロマンス)で、印象的な脇役として登場したキャムがヒーローを務める。
 ロマンス小説で、ヒーローが窮地にあるヒロインを偶然救うことによって出会うというパターンがしばしばあるが、この『夜色の愛につつまれて』も同じである。しかも幾度となく助けられる。十九世紀ロンドン。子爵ハサウェイ家の長女アメリアは、困惑しきっていた。両親が亡くなり、家は困窮の一途を辿っている。しかもある事件から兄レオは生きる気力と妹達に対する責任感を失っていた。歓楽街へと立ち寄り、姿を消したレオを探し、賭博場へと足を踏み入れたアメリアは、賭博クラブの支配人キャムの助けを借り、兄を見つけることができる(助けられた一度目)。一家を立て直す目的もあり、ハンプシャー州の領地に移り住んだハサウェイ家。この土地で、アメリアはキャムと再会する。ハサウェイ家の領地はキャムの知人ウェストクリフ伯爵の領地のごく近く、そこでウェストクリフ伯爵が知り合いの軍人と小型ロケット打ち上げの実験をしている際、巻き込まれそうになった彼女をキャムが助けてくれるのだ。二回目!!
 このとてつもないヒーローとヒロインの再会に思わずずっこけたものの、作品自体はとても楽しめた。これ以降も、ヒロインは「ハサウェイ家の人々が移り住んだ家庭が、弁護士の話とはまったく違う欠陥住宅、部屋に大きな蜂の巣があり、人間はほとんどその部屋が使えない」等の大小のトラブルに見舞われるものの、キャムはよく助けてくれる。
 キャムはロマ(ジプシー)とアイルランド人の混血で、ロマの世界にも白人の世界にも、定位置を持てずにいた。金運は抜群で、ロマの精神により金銭や物品を多く手元に置くまいとするが、彼が捨てようとした金銭は必ず十倍になって返ってくるという途方もない強運の持ち主。アメリアは上記を初めとして、ついつい笑ってしまうようなものから、強く同情してしまうようなものまで、とにかくトラブルに巻き込まれている。兄のレオはかつては良い兄だったが、今は自分勝手な言動が目立つ。日頃は自分自身と妹達への責任を放棄しているくせに、肝心なところでしなくていい家長面し、妹達の足を引っ張るろくでなしぶりがなんとも言えず生々しい。
 アメリアとの愛を成就させるため、ロマの放浪の精神をあっさりと捨てるキャムに「あんなに強く決意していたのに、いいのか?」と言いたくなる。多少の突っ込みどころはあるものの、これは傑作。メリペンの窓磨きなど、ロマンス小説らしい微笑ましくもロマンティックなエピソードにあふれてる。

冬空に舞う堕天使と (ライムブックス)

冬空に舞う堕天使と (ライムブックス)