FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ラ・プティット・ファデット/しかくの

ラ・プティット・ファデット La Petite Fadette

ラ・プティット・ファデット La Petite Fadette

 ジョルジュ・サンド『愛の妖精』を原案としたミステリである。原案の方は舞台は十九世紀の初頭だが、漫画では二十世紀の初めに設定されている。実のところ、『愛の妖精』を読んだのはずいぶんと昔なので、「面白かった」という以外の感想を抱いておらず、詳しいあらすじを覚えていない。だから『ラ・プティット・ファデット』がどれほど『愛の妖精』に拠っているのかが頼りないことによく分からないのだが、作中で起きる事件とその真相は漫画家のオリジナルなのだろう。
 列車の中で向かい合う二人の初老の男。アガサ・クリスティ『ポケットにライ麦を』を読む男に、もう一人の男がある恋愛小説を語る。
 某欧州、おそらくは『愛の妖精』と同じくフランスの村、その富農の家庭に美しい双子が生まれた。兄はシルヴィネ、弟はランドリー、同じときに生まれ、同じ姿形をした兄弟は固い絆で結ばれていた。二人の間にはなにをも入ることはできない。少なくともシルヴィネはそう信じていた。だが悪魔が二人の緊密な結びつきを裂こうとする。ランドリーが奉公に出ることとなった先で親しくなった、貧しく、みすぼらしく、母に捨てられて奇矯な祖母と足の悪い弟と暮らし、医師と薬剤師と助産師の知識あるせいで、村人からは魔女と呼ばれ忌み嫌われる娘、通称「蟋蟀」ことファデットという悪魔のせいで。
 シルヴィネは、ランドリーとファデットが愛し合うことで、双子の結びつきが弱まることを恐れた。だがファデットと接するたび、シルヴィネもまたファデットに惹かれる。この三者の微妙な関係を終わらせたのは、ある人間の死だった。
 終盤で殺人事件が起こり、その謎解きもされる……のだが、この殺人事件はなかなか起こらないので、やはり三角関係の悲恋を描いた漫画として楽しむのが良かろうと思われる。謎とその解明は悪くはないが、漫画全体を見たとき、占めるウェイトが低い。そして恋愛漫画として十分面白い。
列車の中の男が『ポケットにライ麦を』を読んでいるのは、同じ毒が出てくるからだろうか。

愛の妖精 (岩波文庫)

愛の妖精 (岩波文庫)