マーメイド/マーガレット・ミラー
- 作者: マーガレットミラー,Margaret Millar,汀一弘
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1993/01
- メディア: 文庫
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微妙な出来の作品である。
マーガレット・ミラーは詩を思わせる美しい文章で、緊張感あふれる作品を書く。普通小説に近いサスペンスやハードボイルドを書き、しばしば狂気に陥るものが登場することがあるが、それでも基本的にミラーの人を見る目は優しい。
小題の付け方のうまい彼女は、第一部が少女、第二部が女、第三部が人魚と、とても神秘性の感じられる小題をこの『マーメイド』でも付けている。しかし肝心要の内容は、この小題ほど決まっていない。
弁護士のトム・アラゴンの元に現れたクリーオウという娘は二十二歳だと自称した。だがひどく幼く、頼りない印象を与える。彼女自身が認めるよう、知能と情緒の発達に遅れがあるのだ。しかしこのクリーオウ、富豪の身内で、ある年齢に達したならば莫大な資産を受け取ることとなっている。やがてクリーオウは失踪する。彼女が通っていた学校の男性カウンセラーが同じ時期に消えたことで駆け落ちを疑われるが、そのカウンセラーは同性愛者だった。
失踪とその真相が出てくるが、読後の感想は「たまたま失踪が出てくる普通の小説」だった。とてもおかしな表現になるが、「普通小説に近いミステリを書くマーガレット・ミラーの作品群の中でも、ひときわ普通小説に近いもの」となる。よってミステリ的な解決を期待すると、相当の肩透かしを食らうこととなる。ミラー初心者にはお薦めできない。