FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

マーメイド/マーガレット・ミラー

マーメイド (創元推理文庫)

マーメイド (創元推理文庫)

 微妙な出来の作品である。
 マーガレット・ミラーは詩を思わせる美しい文章で、緊張感あふれる作品を書く。普通小説に近いサスペンスやハードボイルドを書き、しばしば狂気に陥るものが登場することがあるが、それでも基本的にミラーの人を見る目は優しい。
 小題の付け方のうまい彼女は、第一部が少女、第二部が女、第三部が人魚と、とても神秘性の感じられる小題をこの『マーメイド』でも付けている。しかし肝心要の内容は、この小題ほど決まっていない。
弁護士のトム・アラゴンの元に現れたクリーオウという娘は二十二歳だと自称した。だがひどく幼く、頼りない印象を与える。彼女自身が認めるよう、知能と情緒の発達に遅れがあるのだ。しかしこのクリーオウ、富豪の身内で、ある年齢に達したならば莫大な資産を受け取ることとなっている。やがてクリーオウは失踪する。彼女が通っていた学校の男性カウンセラーが同じ時期に消えたことで駆け落ちを疑われるが、そのカウンセラーは同性愛者だった。
失踪とその真相が出てくるが、読後の感想は「たまたま失踪が出てくる普通の小説」だった。とてもおかしな表現になるが、「普通小説に近いミステリを書くマーガレット・ミラーの作品群の中でも、ひときわ普通小説に近いもの」となる。よってミステリ的な解決を期待すると、相当の肩透かしを食らうこととなる。ミラー初心者にはお薦めできない。