FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

マハーラージャ殺し/H・R・F・キーティング

マハーラージャ殺し (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 116‐1))

マハーラージャ殺し (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 116‐1))

 十年ほど前に読んだことのあるミステリである。例によって例のごとく内容はさっぱりと覚えていない。
 読み始めてあまりの面白さに、「なぜ覚えてないんだろう」と不思議に思った。
一九三〇年、インドのボーポール藩王国。豪奢な宮殿に集うのは専制君主たるマハーラージャやその息子達や家臣群、そして英米列強から訪れた実業家や建築家やその家族達。マハーラージャの息子の恋人であるコーラスガールの姿も見える。文武に秀でたマハーラージャには人の悪いところがあり、他人を苦しめる悪戯が好きだった。
 やがて皆と狩りにいった際、マハーラージャは生命を落とす。貢物の樹皮が銃の中に詰め込まれていたのだ。
 物語としては一流中の一流。訳者による解説にもあるよう、毒気のある童話めいたストーリー展開が強烈な印象を残す。ことにマハーラージャが死ぬこととなる狩りの場面の美しさは白眉である。
 ただ、ミステリとしては……微妙である。この人が犯人と言うならば、他の誰でもいいような気もする。率直に言えば、舞台の素晴らしさにいま一つ見合っていない。おそらくこれが理由で内容を覚えていないのだろう。
 同じ作者のゴーテ警部もののファンにも嬉しいサービスもある一作。