FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ゴッサムの神々/リンジー・フェイ

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 読んでいてふと想像したのは舞台となっている年代はやや異なっているものの、(本書の方が八十年近く早い)実際に起きた犯罪を扱ったクリント・イーストウッドの某犯罪映画だった。見つかった子供達の死体。弱者への偏見と暴力。そして強いサスペンス性。
 警官の青年ティモシーが主役なのだが、所属している組織が、創設まもないニューヨーク市警察だけあり、他の警察官があまり出てこないので、警察小説というより、私立探偵が活躍する歴史本格ミステリのように感じられる。実兄が(一応)警察のお偉いさんという設定もホームズ兄弟を思わせる。
 一八四五年。日本は江戸時代。アメリカはエドガー・アラン・ポーが『大鴉』を発表した年であり、テキサスとフロリダがようやくアメリカの州になった年であり、アイルランドではジャガイモ飢饉が起こり、アメリカへの大量の移民を出した年でもあった。アイルランド系の移民は宗教の違いもあり、プロテスタントのアメリカ人との対立を招き、大きな社会問題となっていた。
 この混沌の時代、売春宿から逃げ出してきた十歳の少女バードと、ニューヨーク市警察の警官ティムとの出会いは、戦慄の事件が発覚する引き金となった。
 それは社会的にはアイルランド系移民や黒人への排斥運動を増幅させ、ティモシーの個人的な世界においては、愛憎相半ばする兄のヴァレンタインや、愛する女性マーシーとの関係を激変させるものだった。
 主人公の若々しさ、ナイーブさや、バードの愛らしさや逞しさも魅力的だが、発見された二十近い子供の死体を巡って、事件の様相が二転三転と変わっていくのも楽しませてくれる。
 三部作の予定とのことだが、続編にも期待させられる。
 傑作。

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