忘れられた花園/ケイト・モートン
- 作者: ケイト・モートン,青木純子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
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長さにためらっていて、なかなか手に取らなかったのだが、読んでみて、邦訳第一作『リヴァトン館』より、ずっとよく出来ていると感じた。『秘密の花園』や『嵐が丘』や『レベッカ』と比べるのは、いくらなんでも褒めすぎだと感じるし(ゴシック小説の陰鬱さも、ロマンス成分も足らないよ)、ネルの出生の秘密もばればれだが、それでも『リヴァトン館』よりずっと読みやすく、親しみやすい物語だった。
イギリスとオーストリア、舞台は二つの国に渡り、物語の中では百年以上の時間を行きつ戻りつすることになる。約四世代の女性が登場する……もっともネルの娘であり、カサンドラの母親である人間はほとんど名前のみの登場なので、そのうち語り手的役割を務めるのは、三世代の女性だが。
一九一三年。イギリス。ロンドン港からオーストラリアへと船が着いた。そしてそこには、トランクに一冊だけお伽噺の本だけを詰めた少女が取り残された。自分のことはなに一つ分からない。成長してから、その少女ネルは己の過去の虜となった。お伽噺の作者、イライザ・メイクピースとは誰で、自分とどんな関わりがあったのか。
二〇〇五年。オーストリア。カサンドラは戸惑っていた。幼い頃、自分を養育してくれた祖母のネルが、イギリスのコーンウォールにあるコテージが遺されたというのだ。カサンドラはネルの過去の虜となった。コーンウォールを訪ねる。コテージは植物で作られた迷路の奥にあり、そこには隠された花園があった。
ネルとカサンドラ、二人の語り手にして探求者に加え、イライザ・メイクピース本人も登場し、迷路と花園ができるまで、そしてイライザがそこを去らなければならなかったのか理由が明かされる。
『リヴァトン館』の著者解題で、
過去につきまとわれる現在。家族の秘密へのこだわり。抑圧された記憶の再生、継承(物質的、心理的、肉体的な)の重要性。幽霊屋敷(とりわけ象徴的なものが出没する屋敷)。新しいテクノロジーや移ろいゆく秩序に対する不信感。女性にとって閉鎖的な環境(物理的にも社会的にも)とそれに伴う閉所恐怖。裏表のあるキャラクター。記憶は信用ならないこと、偏向した歴史としての性格を帯びること。謎と目に見えないもの。告白的な語り。伏線の張られたテクスト。
という文章があるが、『リヴァトン館』より、むしろこちらの作品に相応しいのではないかと思われる。
第三作もゴシック小説らしいし、邦訳が楽しみだ。今度はどこの出版社から出るのだろう。
- 作者: ケイトモートン,栗原百代
- 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
- 発売日: 2009/10/16
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