FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

バーチウッド/ジョン・バンヴィル

バーチウッド (ハヤカワepi ブック・プラネット)

バーチウッド (ハヤカワepi ブック・プラネット)

 アイルランドの優美な館バーチウッド。いや、言い直そう。どこからともなくやってきたゴトキン一族、諍いをなにより好む彼らがやってきて、屋敷を乗っ取るまでは優美な館だったバーチウッド。今は住人のせいで破滅の危機に瀕している。魅惑的で冷酷で力強い父、戦いたいがゆえに戦うあまりにも好戦的な祖母、そして優しく静かに狂っていく母親。
 記憶の欠片を集め、自分に双子の妹がいると信じた語り手ガブリエルは、狂気に満ちた我が家を出て、サーカス団に加わった。だがそこで目の当たりにしては、双子の妹との麗しい再会ではなく、アイルランドを支配する国の暴力、そして凄まじい飢饉だった。やがて彼は、妹探しの末に、彼にしか分からない理由で一つの真実に気付く。
 名家の没落と、奇矯な遍歴、双方とも、当方の考えるゴシックと極めて親和性あるキーワードである。耽美的で詳細な自然描写も好ましいものだ。語り手の男ガブリエルがきわめて冷静な観察者の語り口で物語を語るにも関わらず、どことく狂気を……彼の肉親と同じように……感じさせるのが素晴らしい。
 歪んだ美を感じさせる作品。