FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

盗まれた魔法/メアリー・ジョー・パトニー

盗まれた魔法 (RHブックス・プラス)

盗まれた魔法 (RHブックス・プラス)

 十八世紀イギリスを舞台に、「魔導師」と呼ばれる魔法使い達のロマンスと活躍を描いたシリーズで、『今宵、魔法をかけて』の続編である。
 メアリー・ジョー・パトニーは、ファンタジー絡みではない、普通のヒストリカルロマンスの方が面白いが、それは「普通の歴史ものはおおもと傑作、ファンタジー絡みだとまあまあ」というぐらいの意味である。というわけで、この『盗まれた魔法』も、ある水準までは面白かった。
 悪党のはぐれ魔術師ドレイトン伯爵によってユニコーンへと姿を変えられた、魔導師にして英国の伯爵位を持つサイモン。彼を救ったのは、ドレイトン男爵の城に囚われ、魔力を吸い上げられていた乙女メグだった。メグは、ドレイトン男爵によって囚われ、記憶と思考力を奪われ、そして他者の目には姿が醜く見えるよう、幻視の術をかけられていた。サイモンを救い、ともに逃げたメグは、大人の女性としての知性や本来の美しい姿を取り戻すが、自分が誰であるかはついに思い出すことができなかった。
 そしてサイモンやその仲間とともに、ドレイトン男爵との戦いに挑む。メグ以外にも、ドレイトンに囚われ、魔力を吸い上げられているものたちがいるようだから、彼らも救出しなければならない。
 ある程度までよくできたパラノーマルロマンス……それ以上でも、それ以下でもないかもしれない。超自然的な要素が絡まないヒストリカルロマンスだと、メアリー・ジョー・パトニー特有の個性や美点がくっきりと浮かび上がってくるのだが、パラノーマルロマンスを書かせると、「どこかで聞いたことのある設定、よくある展開」になってしまうのが残念なところ。メグがある人間を見て、瞬時にして自分の身元や忘却していた家族について思い出す場面はいい。