FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

もう強がりはいらない/リサ・クレイパス

もう強がりはいらない (ライムブックス)

もう強がりはいらない (ライムブックス)

 ヒストリカルロマンスの名手、リサ・クレイパスのコンテンポラリーロマンス(現代を舞台にしたロマンスのこと)である。当方はクレイパスのコンテンポラリー、しかもヒロインの一人称のものを読んだことがないので、ちょっと不安だった。しかし、こちらもなかなか面白く、ヒストリカルロマンスもコンテンポラリーロマンスもうまい作家だと思った。
 『夢を見ること』、『幸せの宿る場所』に続くシリーズ三作目。このシリーズにはどれもトラヴィスという大富豪の一家が登場し、ヒーローやヒロインとして活躍する。
 エラは、妹タラとともに、母親キャンディに育てられた。父親は妻と娘達を置いて行方をくらましてしまった。キャンディにはどうしても母親にはなりきれない性格の持ち主で、エラとタラは混乱し、傷付けられることが多く、成長してからも他人とうまく関係が築けなかった。
 エラはキャリアを積み、女性の自立をしきりに願う女性となかった。タラは精神的に不安定で、常にだらしのない異性関係をもつ女性となった。
 ある日、タラは赤ん坊を産むと、それを母親に押し付けて姿を消した。むろんキャンディには育てられるわけもなく、母親や妹の問題がいつもそうであるよう、エラが抱え込むこととなった。エラは、大富豪の御曹司ジャック・トラヴィスを赤ん坊の父親候補と睨み、会いに行く。そして二人は恋に落ちる。
 ロマンス部分もかなり面白いのだが、ヒロインの父母の毒親ぶりが実にリアル。家族への責任をすべて投げ出す父親と、暴力など分かりやすい虐待をするわけではないものの、そのころころと変わる言動で子供達を追い詰め、苦しめる母親、そしてそれに成長してもなお振り回されるヒロインと妹の心理状態が、息苦しいほど濃密に描かれている。
 ごく普通の女性(といっても、ヒロインは美貌のキャリアウーマンだが)と大金持ちのハンサムな男性が恋に落ちるというお伽噺的な側面と、アダルトチルドレンとその親という、いかにも現代的で深刻なテーマ、その二つを併せ持つ作品。
 リサ・クレイパスの作品としてはやや重い印象を受けるものの、ずっと作者のヒストリカルロマンスばかり読んでいた身としては、新鮮に感じられる。

夢を見ること (ライムブックス ク1-11)

夢を見ること (ライムブックス ク1-11)

幸せの宿る場所 (ライムブックス)

幸せの宿る場所 (ライムブックス)