FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

みだれ絵双紙 金瓶梅/皆川博子

皆川博子コレクション10みだれ絵双紙 金瓶梅

 

 出版芸術社から出版された、日下三蔵編『皆川博子コレクション10 みだれ絵双紙 金瓶梅』に収録されているものを読んだ。生まれて初めて読んだ皆川博子の『金瓶梅』で、とても良かった。彼女の作品としては珍しく、肉の快楽の描写が多く、黒い艶笑譚の色合いが濃い。全編を彩る岡田嘉夫のイラストレーションが凄艶だ。
 中国は宋時代、美しい子供が母から纏足を強いられる場面から幕をあげる。好色な富豪の西門慶と彼の複数の妻たちの生活を中心とした悪と豪奢と頽廃に満ちた物語で、そこに木蘭や武松、燕青といった盗賊や無頼の徒たちの活劇が絡む。
 ところで私の中国文学『金瓶梅』に対する知識は、ほとんどすべてが山田風太郎『妖異金瓶梅』に依っている。今更言うでもないが、山田風太郎『妖異金瓶梅』はミステリ史上の大傑作で、あの潘金蓮、あの応伯爵は生きている限り忘れることができそうにない。
 そしてもちろん皆川博子『みだれ絵双紙 金瓶梅』の潘金蓮と応伯爵の姿は忘れられそうにない。また潘金蓮と応伯爵の末路には滑稽味も恐怖もあるが、美童の琴童が作中で受ける虐待と屈辱、颯爽たる美男、燕青の活躍とあるヘマから陥ってしまった無残極まりない地獄には目を覆いたくなる。
 かぐわしい文章に妖艶なイラストレーション、皆川博子の作品にしっかりと仕込まれた毒という芳醇な酒に酔ったような気持ちとなる大傑作。

 

妖異金瓶梅  山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

↑ミステリ史上、屈指の傑作。そして怪作。