FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

紙片は告発する/D・M・ディヴァイン

 どの作品も一定の質を保っているD・M・ディヴァイン。この『紙片は告発する』も例外ではない。は地味ではあるが、登場人物とその言動の描写、彼らの織りなす物語がとてもスムーズに心の中に入ってくる。一九七〇年に発表されたにも関わらず、某議員の鬱陶しさは現在に通じるものを持っており、読んでいて苛立ち、そして気が滅入りになるほど。もちろん殺人事件とその謎解きも十分楽しめる。
 女性が職場で奮闘する様子は同じくディヴァインの『悪魔はすぐそこに』、主人公の恋愛が謎解きに、そして物語に大きな影響を与える様子は『そして医師も死す』を思わせる(謎解きの後にあの展開が待っているというところが特に)。
 町長選出を控えて揺れる田舎町の町政庁舎。周囲から嘘つきのレッテルを張られている……そして嘘つきであることは事実だった……若いタイピストのルース。彼女は職場で奇妙なメモを拾ったあと、殺された。町政庁舎に関わる人間たちはほとんど誰もが腹にいちもつ抱えており、しかも殺人事件はそれだけで終わらなかった。
 佳作。