FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

YOU/キャロライン・ケプネス

 ダン・ブラウンダ・ヴィンチ・コード』とスティーヴン キング『ドクター・スリープ』がとても効果的に使われている物語である。この二作品を読みたくなった人もいれば、しばらく表紙も見たくないという人もいることだろう。
 「ぼく」ことジョーが、「きみ」ことベックの話ばかりをしている小説である。『YOU』というタイトルがつけられた理由の一つは、おそらくそこから来ているのだろう。
 実はこう言ったスタイルの小説はわりとある。探偵小説から例として持ち出せば、相手の呼び方こそ「きみ」ではなく「ホームズ」ではあるが、ジョン・ワトスンがシャーロック・ホームズの言動ばかりを描写している。それはワトスンが事件の記録をつけるとともに、ホームズの探偵としての才能を賞賛しているからだ。
 それに対し「きみ」ベックの話ばかりしているのは、愛情からである。それも歪んだ愛情。ジョーはベックのことならなんでも知っているが、ベックは少なくとも途中まではその事実を知らない。
 そう、ジョーはベックのストーカーだ。それも極めて優秀なストーカー……ということは、極めて気色の悪い犯罪者でもある。ベックの情報を掴み、メールを盗み見し、スケジュールを把握し、交友関係を割り出す。そしてベックとの「愛」の「邪魔になりそうな奴」は冷酷な手段で排除する。
 いつベックがジョーの毒牙にかかってしまうか、ベックがジョーの正体に気付くがはらはらしながら読むのだが、全編を通してなによりジョーの人物描写に度肝を抜かれる。
 その優秀さと行動力、もっと別のところに使いなよ!
 と突っ込みたくなるタイプで、なまじ書店の店員として働くことのできる社会性や、たまに正常な思考を見せることがあるので、余計に性質が悪いタイプである。
 人がなかなか異常さに気付きにくいタイプだ。フィル・ホーガン『見張る男』からさして時間が経たないうちに、立て続けにスト―カ―が主役の小説を読むことになった。
 異形の秀作。

↑まだ読んだことはないが、読むとジョーの変態行為のあれやこれやを想像してしまいそうだ。