FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

沈黙の果て/シャルロッテ・リンク

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 以前ジョエル・ディケールの『ハリー・クバート事件』の感想を書いたとき(http://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/20140929)、「今年の国内ミステリのベストスリーは、若竹七海『暗い激流』、米澤穂信『満願』、そして植田 文博『経眼窩式』の三作で決まりそうだが、翻訳ミステリのベストはジョエル・ディケール『ハリー・クバート事件』、ヘレン・マクロイ『逃げる幻』と、あと一つなにかいい作品が出てこないかな」と書いたが、その「いい作品」が出てきたようだ。
 緻密に書き込まれた物語的ミステリで、『ハリー・クバート事件』と同じく、強い魅力と吸引力を感じる。
 『ハリー・クバート事件』はスイスの青年作家が、アメリカを舞台に、フランス語で描いた小説だが、『沈黙の果て』はドイツの作家が、イギリスを舞台に、ドイツ語で執筆した描いたミステリである。
 イギリスのヨークシャー。ブロンテ姉妹が住んでいた土地。この地にある古い屋敷で、屋敷の持ち主である女性を含め、三組の家族が休暇を楽しんでいた。いや楽しんでいるふりをしていた。古い友人である夫三人はいくらか不自然なほど強い絆で結ばれていた。妻同士、あるいは夫と妻、そして子供達の関係は、かならずしも安定しているわけではなかった。 
 そしてこの複雑な人間関係をさらに複雑にするかのように、屋敷を狙う男が現れる。
 帯にも書いてあるので、ここでばらしてしまうが、この屋敷の中で大量殺人事件が起きる。しかし犯人はもちろん、三組の家族のうち誰が死に、誰が生き残るのか、なかなか分からない。この辺りは、ミネット・ウォルターズ『遮断地区』を思わせる。
 現在進行形で進む家族の危機、そして夫達の結束の強さの秘密、そして、大量殺人事件の真相……とても濃密な読書体験ができる傑作。
 もっともっとシャルロッテ・リンクの小説が訳されて欲しい。ドイツ人のミステリ作家の繋がりで、ネレ・ノイハウスの作品もぜひ。

ハリー・クバート事件 上

ハリー・クバート事件 上

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