FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

忘却の声/アリス・ラプラント

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 秀逸なフーダニットであり、ユニークな「信頼のできない語り手」が登場するミステリである。主人公に悪意はない。多分ない。だが六十五歳で、かつては優秀な医師で、現在は認知症のヒロインのジェニファーは、親友アマンダが殺害された事件の詳細は分からない。すべて忘れてしまっている、自分がアマンダを殺したのか、あるいはそうでないかを含めて。
 認知症の女性の一人称が大部分を占める小説(しかも上下巻)と言えば、ひどくおぼつかない、進行ののろい作品を連想させるが、かすかな記憶、過去の記述、息子や娘との会話、警察関係者や弁護士とのやり取りが、アマンダ殺人事件の真実、そして認知症になる前のジェニファーおよび殺害されたアマンダの人となりを、巧みに浮かび上がらせていく。
 この断片的な情報の破片は与えられつつも、事件の全体的な構図をなかなか読み取ることができない、という造りと、読者を焦らすテクニックの巧みさはミネット・ミネット・ウォルターズを連想させる。
 傑作。