FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

エビデンス  全滅 /オラトゥンデ・オスンサンミ監督

 ラスベガス行のバスの乗客達を襲った仕組まれた事故。ほとんど廃墟のような、砂漠の中のガソリンスタンドへと逃げ込んだ彼らを襲った惨劇。大量殺戮の中にも生存者がどうにかいるらしいことがほのめかされのだが、それが誰なのかなかなか観客には明かされない。
 現場に残っていた証拠の一つは、ある映像だった。監督志望と女優志望の若い女性二人コンビが主たる撮影者だったもので(むろんラスベガス行のバスの乗客達に含まれている……)、最初はドキュメンタリー映画の作成を試みていたのだが、ガソリンスタンドで最初の殺人事件が発生してからは、警察に証拠として使ってもらい、犯人を捕まえてもらうためと、撮影の目的が切り替わっている。
 しかし撮影者達も殺人鬼に追われ、逃げ回っているため、映像としては不安定だ。警察関係者は映像を修復したり、一時停止したり、一部を拡大させたり、様々な工夫を重ね、断片的な映像から情報をかき集め、捜査を進めていく。
 ファウンド・フッテージもののホラー映画は、いまやあふれかえっているが、このような使い方をしているのは斬新で、この設定だけで高い評価ができる。実のところ「猟奇的殺人事件に巻き込まれた被害者が残した映像を、警察官がただ見ているだけ」という内容を予想していが、証拠としてちゃんと機能しており、それによって警察の捜査も進行、そして変化している。
 殺人場面がグロテスクかつ強烈なのでホラー映画に分類されるだろうが、二転三転する警察の捜査といい、ミステリとしての楽しみもきちんとある。
 それにしてもあの殺人鬼、あっさり捕まりそうな気がする(ひょっとして、本人もそれでもいいのかも)。
 秀作。