FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

狼の王子/クリスチャン・モンク

 作者はデンマークコペンハーゲン出身。渡米し、アメリカで映画製作に関わっていた。本書『狼の王子』は最初英語で執筆され、続いて作者みずからの手でデンマーク語に翻訳されたというちょっと珍しい経緯を辿っている(これは最近日本にも増えてきた北欧ミステリの一冊としてカウントしても良いのだろうか?)ちなみに小説の舞台は、デンマークでもアメリカでもなく、アイルランドの田舎町だ。
 良くできたサスペンス小説で、関わる男性を破滅させる「宿命の女」ではなく、関わる女性を破滅させる「宿命の男」が登場する。アイルランドの妖精伝説の中には、女性を口説き、恋い焦がれさせ、やがて死にいたらせるというガンコナーという男性の妖精がいるので、そのイメージも重ね合わされているのかもしれない。なにせ小説に出てくる男も「語り」の名手だったから。
 まず読者に、三人の死者、しかも犯罪の被害者と加害者が紹介される。実の叔母に監禁され、殺された二人の若い女性。犯人たる叔母も死んだ。この女性達が密かに日記を残しており、ある青年がその手記を手に入れたときから、青年も読者もなぜこんな陰惨な殺人事件が起きたのか、その始まりと終わりの地点に連れていかれることとなる。
 「謎めいた手記」が大好きな当方にとって、この日記が登場するだけですでに点数が高いが、生死が分からないある人物のため、最後の最後まで気の抜けない展開が待っている。
 著者曰く「これはスリラーの態を取ったラブストーリーであり、ゴシック・サスペンスで包んだ推理小説であり、なにより人間の秘めたる欲望を究明する作品」とのことだが、囚われの乙女、魅惑的な悪漢、謎めいた手記などの取り合わせは、確かにゴシック小説の香りを強く漂わせている。
 秀作。特にサスペンス好きにはお薦め。