届け物はまだ手の中に/石持浅海
石持浅海にしては、珍しく爽やかな話だった、と書こうとして指が止まった。
爽やか……爽やか……主要登場人物の心の中には、爽やかな風が吹いて終わる。他の登場人物や読者の心はいざ知らず。
と言うと、「いつもの石持浅海じゃないか」と言われそうだが、ここ最近の彼の著作群の中では、もっとも出来がいい。サスペンス性も最後まで強く感じられる。
恩師を通り魔によって失った二人の男。悪辣な弁護士により、犯人は法律上の罪を免れた。ならば我が手で復讐を、と誓ったが、親友は中途で復讐を諦めた。
恩師を殺した犯人への怒り。そして志を裏切り、復讐を諦めた親友への怒り。
二つの激怒と「届け物」を抱え、男は親友の家を訪れる。親友の幼い息子の誕生日パーティーが開かれるなか、親友の妻、妹、秘書の三人の美女が男を出迎える。
「届け物」を見せ付けたいにも関わらず、裏切りの親友は一切顔を見せない。どれほど時間が経っても。
「親友の家でなにが起こっているのか」という強烈な謎とサスペンスを軸に、男と三人の美女の攻防(腹の探り合い)が楽しめる一作。時折回想が挟まれるが、この攻防だけでほぼ一冊持たせたのだから、大したものである。
最後の最後で、主役の男と読者の前に示される「あるもの」が、「届け物」との強烈なコントラストを成しており、印象深かった。
秀作。
最近の彼の著作群と偉そうに書いたけれど、『カード・ウォッチャー』と『わたしたちが少女と呼ばれていた頃』をまだ読んでないや。