FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

蠟人形館の殺人/ジョン・ディクスン・カー

蝋人形館の殺人 (創元推理文庫)

蝋人形館の殺人 (創元推理文庫)

 大昔に読んだことがあるはずだが、恥ずかしながら内容を全く覚えていない。さらに情けないことを言うが、アンリ・バンコランものの作品全般について、記憶がごっそり抜け落ちている(アンリ・バンコランにもワトスン役がいたことすら忘れていた……)
 つまらなかった、ということが理由ではないはずである。なにせ、この『蠟人形館の殺人』はなかなか楽しめたから。
 楽しかった理由が、パリの放つ頽廃的な雰囲気にあり、ゴシックロマンを思わせる蠟人形館という舞台や、同じくゴシックロマンめいた女の死体を抱く半人半獣の像という小道具にあり、そしてなにより意外な犯人にある。
 失踪した元閣僚令嬢は他殺死体としてセーヌ河に浮き、その友人である、やはり名家の令嬢クローディーヌの亡骸は、蠟人形館の中で見つかった。二人の令嬢の死には、「仮面クラブ」といういかがわしいクラブが関わっていたらしい。パリの予審判事アンリ・バンコランと、その友人ジェフ・マールは二人の令嬢の謎の死に挑む。
 本格ミステリであり、華やかなで享楽的な都市を舞台にした冒険小説でもある本書だが、ラストに浮かび上がる犯人とバンコランとの対決が大いに読者を戦かせてくれる。果たして、あのときバンコランは本当のことを言っていたのか。
 イギリスを舞台にしたカー作品とは、また異なった趣のある一冊。