FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

開かせていただき光栄です/皆川博子

 帯にあるよう、これは著者の集大成にして新境地。これまで皆川博子の著作の繊細さに影のようにつきまとう陰険さはやや薄れ、ユーモアがあり、しかも妖しさはしっかり残っている。特筆すべきは本格ミステリとしての色がかなり濃いことで、ラスト近くのどんでん返しの連続には驚かされた。
 十八世紀のロンドン。私的解剖教室を開いている外科医ダニエル・バートンは、それぞれ個性豊かな五人の弟子とともに、日々解剖に勤しんでいた。ある日、彼の解剖教室から、あるはずのないものが発見される。四肢を切断された少年の死体と、顔を潰された男性。
 彼らの教室に目をつけたのは、清廉で聡明な治安判事ジョン・フィールディング。彼は盲目だが、鋭い聴覚で人の声を幾通りも聞き分け、真実を探り当てると犯罪者達に恐れられている。しかもジョン・フィールディングは、女性助手(彼の姪アン)などという当時としてはありえない存在を連れて捜査していた。
 この教室での不可解な出来事に、詩人志望の少年が絡む。野心に満ち満ちた彼は、故郷を捨ててロンドンへと向かう。詩を書店に売り込もうとした彼は、準男爵令嬢エレインと出会い、激しい恋に落ちる。やがて彼の詩を認めてくれる紳士と出会うが、それは陰謀という迷宮の入口だった。
 皆川博子の従来のファンから、初めて彼女の作品を読むという人間までをも魅了するであろう傑作。
 ちなみにジョン・フィールディングは、早川書房ハヤカワ・ポケット・ミステリのブルース・アレグザンダー『グッドホープ邸の殺人』、『グラブ街の殺人』でも名探偵役を務めている。

グッドホープ邸の殺人 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

グッドホープ邸の殺人 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

グラブ街の殺人 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

グラブ街の殺人 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)