FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

囚われの愛ゆえに/アナ・キャンベル

囚われの愛ゆえに (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

囚われの愛ゆえに (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

 『罪深き愛のゆくえ』では、病んだヒーローがヒロインを監禁していたが、この『囚われの愛ゆえに』では悪漢によって、ヒーローとヒロインがともに監禁されている。とすれば、いつかアナ・キャンベルはヒーローが病んだヒロインによって監禁される話を書くのだろうか?
 冗談はさておき、実にダークで耽美的な恋物語である。ゴシック小説としての印象も強い。ヒストリカルロマンスを漁っていて、これほどゴシック小説らしいものに当たったのは、コニー・ブロックウェイのマクレアン三部作の第一作『美しく燃える情熱を』と第二作『宿命の絆に導かれて』以来である。
 シーン侯爵マシューは、十代の少年だった頃、発作を起こして以来、実の叔父の手により、十年以上も豪奢な館に狂人として監禁されてきた。叔父の狙いは、マシューを殺さず、しかし決して自由を与えず、一族の金銭を吸い取り続けること。
 常に屈強な門番がついており、味方は一人もおらず、マシューの脱走に協力したものは、叔父によって情け容赦なく破滅させられた。マシューは脱出を諦め、愛犬の存在と、薔薇の栽培と研究のみに慰めを得ていた。
 叔父の手によって、一人の女性が同じ館に幽閉されるまでは。
 女性の名前は、グレース。貧しくはあるものの、若く美しく貞淑な未亡人だった。歩いていた場所のせいで娼婦と間違われ、誘拐され、マシューのもとへと差し出されたのだ。
 幽閉されている、味方は互いに二人だけという異常な状態の中で、燃え上がる美貌の男女の恋。脱出を夢見るものの、果たして脱出できるのか、そして一度外の世界に出たあとも、二人の恋は続くのか。
 こうしてあらすじを書いているだけで、いかにも他のヒストリカルロマンスとかけ離れた設定の作品なのかがよく分かる。しかも面白い。一般受けは決してしないだろうが、変わったロマンス小説、ダークなロマンス小説が読みたいむきにお勧めしたい。

美しく燃える情熱を (ライムブックス)

美しく燃える情熱を (ライムブックス)

宿命の絆に導かれて (ライムブックス)

宿命の絆に導かれて (ライムブックス)