FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

カリブ海の秘密/アガサ・クリスティー

カリブ海の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

カリブ海の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 続編『復讐の女神』も読んだし、内容は全部覚えているよ。そう思いつつ読んだのだが、まるで違っていた。どうやらポワロの中東もののどれかと取り違えて記憶していたらしい。結果として、新鮮な気持ちで読むことができた。めでたい。
 一見したところ、ただの噂好きの老婦人、実は叡智を内に秘めた名探偵ジェーン・マープル。彼女は珍しくセント・メアリ・リード村を離れていた。体調を気遣った甥のレイモンドがカリブ海での療養を勧めてくれたのだ。
 西インド諸島で優雅ながら退屈な日々を過ごすマープルの前に死体が転がる。この地に来てからのマープルの話し相手の一人、パルグレイヴ少佐だ。彼は話題の一つとして、ある殺人鬼の写真のことを持ち出していた。そして、なにかを見てひどく驚いているような顔をした。彼の死は自然死じゃない。そう感じたマープルは、老人に甘い医師グレアムを手足のごとく使いつつ真相を探る。
 面白かった。クリスティーの著作には傑作が多いが、ベスト30を選ばせたならばその中には入るだろう。過去に起きた出来事に比重を置いているため、派手な展開はないものの、南国のエキゾシチズムとあいまい、よい味を出している。
 『復讐の女神』事件にミス・マープルが首を突っ込む契機となる富豪ラフィールも登場人物の一人として因果で魅惑的な爺さんぶりを発揮している。

復讐の女神 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

復讐の女神 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)