FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ルイザと女相続人の謎/アンナ・マクリーン

ルイザと女相続人の謎―名探偵オルコット〈1〉 (創元推理文庫)

ルイザと女相続人の謎―名探偵オルコット〈1〉 (創元推理文庫)

 ものすごく見事な歴史コージー・ミステリ(こんな言葉、あるだろうか?)
 「名探偵オルコット」の副題の通り、かの『若草物語』の作者たるルイザ・メイ・オルコットが探偵役を務めている。ヒロインのルイザをはじめ出てくる女の子達はキュート、一八五四年のボストンは素敵、ストーリー中途のスリルは満点、謎解きという点については……まあまあといったところ。
 まったく予備知識なく買った作家の作品だが、これは久しぶりの大ヒットだった。
 功なり名を遂げ、人々に愛され常に注目される作家となった熟年のルイザ。古い友人から手紙を受け取った彼女は、一八五四年のボストンを思い出す。
 当時彼女は二十一歳、作家を夢見る若い娘だった。頭の中で激しい恋やら裏切りやら陰謀やらを常に思い浮かべていた彼女だが、現実に出くわした陰惨な事件はルイザの魂を激しく揺さぶった。死んだのはヨーロッパから夫ともに帰ってきたばかり親友ドロシー。検視の結果、彼女の死は他殺と分かった……ドロシーは最後に会ったとき、ルイザになにかを打ち明けようとしていたのに、ルイザはそれをその場で聞くことはできなかった。ルイザは、もう一人の親友シルヴィアと謎を追う。赤毛のコバン巡査を助けたり、助けられたりしながら。
 アンナ・マクリーンはミステリの著作こそ少ないながら、別名義で何冊もの歴史小説を発表しているという。そのせいか、一八五四年のボストンがおそろしいほど魅力的な場所に感じられる。実父や自分自身の信念に従って社会的弱者を助けたり、舞踏会に行ったり、観劇をしたり、「若い女性の身にも関わらず、一人で男性を訪問した」という事実から「半裸のまま通りまで男性を追いかけていた」というとてつもない噂を流されたり、まあ色々である。現代日本とまるで違う部分もあれば、ほとんど同じところもある。
 なにかとルイザの手助けをしてくれるシルヴィアはかっこいいが、ルイザの姉や妹達があまり出てこないのが残念と感じたのは、やはり当方が作者ルイザ=『若草物語』のジョーと錯覚しているからだろうか。
 「名探偵オルコット」シリーズがすでに刊行準備中とは嬉しい限り。「文豪は名探偵」シリーズで、誰か荒野で起きた謎を解く「名探偵エミリ・ブロンテ」や学園で起きた謎を解く「名探偵シャーロット・ブロンテ」を書いてくれないだろうか。