手紙は憶えている/アトム・エゴヤン監督
これはネタバレを必死に避けて見たかいがあった。面白いミステリ映画だった。ひょっとして今年でナンバーワンかもしれない(去年見たものの中でナンバーワンインドのミステリ映画、スジョイ・ゴーシュ監督『女神は二度微笑む』だった)。
見事なミステリ映画であり、完成度の高い復讐物語である。高齢者のナチスへの復讐という点でミステリ小説、ダニエル・フリードマン『もう年はとれない』をふと連想したが、実際に見てみるとずいぶんと趣が異なっている。
認知症の老人が妻を失ったことを契機に、かつて強制収容所で自分たちユダヤ人を虐殺した元ナチスの男に復讐をしようという映画である。復讐したい男はユダヤ人になりすまし、平和な日常生活を送っていたらしい。
元ナチスの男かもしれない容疑者は複数いて、主人公の老人はどの男が本人なのかを確かめるため、老人ホームを脱出し、候補者を一人一人訪ねて歩く。すぐ記憶が飛んでしまうため、手紙と、脱出したホームに残った相棒との電話を頼りにしながら。
主人公が認知症という設定の「信頼できない語り手」の物語である。主役の老人もさることながら、パートナーである、もう一人の老人は、足以外は一見しっかりしているように見えるが、彼だって本当に正気なのかどうか見る者には分からない。
しかしラストに現れた復讐の図、なぜこの時点で、この追跡が行われなければいけなかったのかがはっきりと分かり、慄然とする。
見事な「操り」テーマのミステリ映画。ちりばめられた伏線もお見事。傑作。
- 作者: ダニエル・フリードマン,野口百合子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2014/08/21
- メディア: 文庫
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