古書贋作師/ブラッドフォード・モロー
初めて読む作家だが当たりを掴んだ……と思ったが違っていた。初めて読む作家ではない。三橋暁の解説にあるよう、二巻からなる『幻想展覧会―ニュー・ゴシック短篇集』をパトリック・マグラアと共編著をしており、「ナディーヤへの道」という彼自身の作品がここに収録されている。私は『幻想展覧会―ニュー・ゴシック短篇集』は二冊とも読んだはずだが、ブラッドフォード・モローの作品も名前も忘れていた。情けない。
初めて触れる彼の長編『古書贋作師』には強い印象を受ける。贋作という犯罪行為に芸術家のごとき自負心と技術力を用いて挑んでいた主人公ウィル。逮捕されたことを契機に贋作から足を洗い、愛する女性と人生をともにするようになるが、恋人の兄……やはり贋作師だった……が惨殺された事件と、謎めいた脅迫状が新生活に影を落とす。
ミステリとして考えたとき真相には察しがつきやすいものだけれど、稀覯本の世界という一つの芸術界(と、そこに跳梁跋扈する贋作師たちの犯罪世界)の雰囲気、知的で博識であるウィルの語り口には独特の吸引力がある。ウィルがコナン・ドイルを崇拝しおり、作中で頻繁に触れるので、ミステリファンにはさらに親しみやすい作品になっている。
佳作。