嘘つきポールの夏休み/サビーン・ダラント
うん、正統派のイヤミスだ。
クズな主人公が一気に地獄に陥るわけではなく、少しずつ少しずつ追い詰められていく様子を見て取ることができる。
一言で言えば好色でエゴイストの主人公がバッドエンドを迎えるミステリだが、それでも一抹の清爽感があるのは、最後の最後で主人公が自分や自分の行いの非を認めて悔い、そして許すことのできないあることのために自己を陥れた人間と戦う気概を見せ、作家としても再生するからだ。むろん物語が終わったのちには主人公、「嘘つきポール」が完全に敗北して破滅するかもしれないが、このラストにポールがいたった心境が小説全体の重苦しさをやや和らげている。
売れない小説家の中年男性ポール。容姿と口先の魅力だけで生きてきた彼だが、とうとう運がつき、住居にも金銭的にも行き詰まることとなった。だがポールは同級生の弁護士アンドルーを通して、やはり弁護士アリスと出会う。アリスは裕福な弁護士で、社会的な弱者の味方だった。未亡人のアリスに取り入るため、ギリシャの別荘を訪れる彼だったが、その地で起こった性犯罪、そしてアリスがとても気にかけている、やはりこの地で起きた十年前の少女失踪事件が、奇妙な形でポールに覆いかぶさっていく(酒に酩酊してほとんど覚えていないが、ポールもその事件が起こった当時、同じ土地にいたのだ)。
バカンスのため訪れた美しい南欧の島々が、ポールにとっての悪夢の迷宮に変わってしまう様相に読み応えあり。これを書くと察しがついてしまう人もあるかもしれないが、「事件の謎と真相」にも意外性があった。
映画になったところを見てみたい作品でもある。佳作。