FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

鏡の迷宮/E・O・キロヴィッツ

鏡の迷宮 (集英社文庫)

 

 作者E・O・キロヴィッツルーマニアトランシルヴァニア出身(ドラキュラ伯爵、いやヴラッド・ツェペシュ……)。ミステリというジャンルでくくらなくとも、生まれて初めてルーマニア人が描いた小説を読んだ。そしてとても良かった。 2017度のベストミステリはジェイン・ハーパー『渇きと偽り』、のジム・ケリー『凍った夏』、そしてこのE・O・キロヴィッツ『鏡の迷宮』になるかもしれない(もっと面白いミステリが出てきたら、もちろん嬉しい)。

 謎めいた手記や日記、手紙が出て来るミステリが大好きなのだが、『鏡の迷宮』には謎めいた原稿が出て来る。しかももう一つ大好きな「過去の殺人」も出て来る。

 かつて起きた大学教授殺し。この殺人事件に関する原稿を送付された文芸エージェント、彼の友人であるフリーの記者、アルツハイマーの症状に悩む元警察官がそれぞれの立場から過去の殺人事件を追い、当時の関係者と会い、調査を進める。同時に彼らの人生も様々な形で動いていく。

 訳者あとがきで指摘されているよう、解決されていない謎もあるが、その不透明さ、むず痒さがいっそう作品の神秘性を高めている。これは佳作。解説で紹介されている『The Book of Echoes』(おそらくは「過去の殺人」が登場する)もぜひとも日本で出版してほしい。

 

渇きと偽り (ハヤカワ・ミステリ)

凍った夏 (創元推理文庫)