FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

刺青/谷崎潤一郎

 Kindleを通し、青空文庫に収録されているものを読んだ。過去何度も読んだことがあるから内容は知っている。風邪で心身が弱っているときに読んだのだが、非常に耽美的、背徳的な内容で「やはりこういう世界が大好きだ」と感じさせてくれた作品。エネルギーを私に与えてくれた。
 谷崎純一郎には代表作『痴人の愛』を初め、男性を餌食にする魔性の女タイプの美女がたくさん出て来るが、この短編はまだみずからの魔性を認めていない少女が刺青師の男に強引に女郎蜘蛛の刺青を彫られることにより、みずからの真のありように目覚めていく物語である。
 男は少女の導き手であると同時に、最初の餌食である。
 「まだ人々が「愚」と云う貴い徳を持って居」たころ、若く腕利きの刺青師、清吉は美しい女性の滑らかな肌に刺青を彫りこむことを夢見ていた。ある夏、駕籠からのぞいている女の足に惚れた(男の生き血で肥え太り、そのうえ男のむくろを踏みつけにする足だと惚れたのだ)。そして数年後、清吉はある芸妓の使いとしてやってきた小娘を見、あのときの足の持ち主だと気づく。そして少女の心が正真正銘毒婦のものだと言うのに、少女がそれを認めまいとすると、清吉は麻睡剤を手にし、小娘に刺青を彫るのだ。
 「悪女が自分の本性を自覚し、誕生するまで」の物語。傑作。

↑日本を代表する悪女小説の傑作