浴室には誰もいない/コリン・ワトスン
コリン・ワトスンの<フラックスボロー・クロニクル>第三作。邦訳としては『愚者たちの棺』に続く二作目だ。
アントニイ・バークリーが激賞したというのもよく分かる、ひねくれたミステリである。本格ミステリと思えばスパイ小説に傾き、スパイ小説だと思えば本格ミステリに揺れる。「結局本格ミステリとして解決されるが、真犯人はいかにもスパイ小説的な小道具によって生命を奪われる」という決着がいかにも皮肉。
匿名の手紙によって、ある家の浴室から人を溶かして流したという痕跡が見える。被害者と思しき男性をめぐり、ロンドンからは情報部員がやってきて、地元警察とはまた違った意味で迷走を始める。風変わりな魅力を持つ一冊。