FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

サユリ 完全版/押切蓮介

 閉鎖的な田舎での、いじめから発する救いのない事件を描いた『ミスミソウ』でも印象の深い押切蓮介の傑作にして怪作。単行本2巻を1巻にまとめており、作者の言葉によると、これは1巻で読むのをやめてしまう人が多かったため、2冊分を1冊にまとめて発表することができ、とても嬉しいとのことだ。分厚い!
 いわゆる「幽霊屋敷」もののホラー漫画だが、展開がとてもユニークだ。
 なぜこの『サユリ』が傑作にして怪作なのかと言えば、人間による幽霊への復讐が描かれるからである。幽霊から人間への復讐ではない。また宗教的な力や知識を持つ「お祓い」や「除霊」の類でもない。気力と復讐心に満ち溢れた普通の人間からの、幽霊へのリベンジである。実際にどういった方法で仕返しするかは読んでほしい。
 またまた作者の言葉を借りれば「邦画ホラーはいつもいつも負け戦ばかりでスッキリしない」ので、こういった作品を描かれたのだそうだ。
 念願のマイホームを手に入れ、引っ越しをした一家。しかし幸福は砂の城のようにもろく崩れ去った。祖母と長男である少年を残し、残りの家族は命を失い、あるいは消え去った。少年は絶望したが、祖母は家族の生命を奪ったものへの怒りに満ち満ちていた。
 物語の前半と後半ではジャンルが異なるようにすら感じられる。前半ではひたすら陰鬱で恐ろしい世界が広がり、後半では怒りやその悲しみといったネガティブな感情を糧として復讐もののカタルシスを味わうことができる。
 勝利戦ですっきりと終わることのできる、傑作にして怪作。

↑陰気な気分になる傑作。