FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ささやかな手記/サンドリーヌ・コレット

 これはすごい。間違いなく2016年度ベスト5に入るだろう凄惨なサスペンスである。田舎の農場に監禁された男性のミステリという主題で、国旗は違うがサイモン・ベケット『出口のない農場』を連想させるものの、かの作品より酷薄である。
 フランス。刑務所を出たばかりの、やくざものの中年男性テオ。ある理由から人目を避けて田舎に足を向け、あてのない日々を送っていたところ、山中で銃を持つ老兄弟につかまり、彼らの奴隷として捕らえられる。足首に鎖をつけられ、地下室に監禁され、家畜さながらの絶え間ない労働を強制され、地獄の生活を送る羽目になる。
 この地獄の生活ののちの、生死を含めてテオの状態は冒頭で察することができるようになっている。しかしこの結末を含んだとしても、もっと恐ろしいものが小説の中にはある。
 テオの精神の変容だ。最初に老兄弟に捕まったときも、テオは中年男性、相手は年老いた男性2人ということで、すぐにでも反逆や脱走ができる、それに(いささかネタを割ってしまうが)テオが捕まったとき、「奴隷」は1人ではなかった。力を合わせれば、どうにかこの状況を打開できるのではないかと思わせる。
 しかし武器や拘束、それに飢えや乾きといった状況がそれをさせない。やがてテオの心が折れ、この異常極まりない生活にさえ慣れていくのだ。老人たち兄弟に気にいられていると感じ、嬉しささえ感じるようになる。このくだりは本当に生々しく、ぞっとする。
 傑作。後味の苦々しさは保証したい。