FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

人間臨終図巻 上/山田風太郎

 いつか読もうと思っていた本である。ふと思い返してみたら、いつか読もうと考えてから20年近くが経過していることに愕然、手を取ってみた。
 私が手に取ってたのは、平成26年に角川文庫から出版されているものだ。上・中・下に分かれているのだが、まずは上巻から。若い順から、色々な人間(それこそイエス・キリストから夏目雅子まで)、その臨終の際が淡々とした筆致で綴られている。
 山田風太郎の博学多識、人間観察力、批判精神とユーモアがぞんぶんに感じられるもので、驚かされる。それに、あくまで小説を読んだ限りの印象だが、山田風太郎はいわゆる主語が大きな人で、「男は……、女は……」といった論調が小説の中では多く使われていたため、やや女性蔑視の空気も感じたが、ノンフィクション「人間臨終図巻」では男女どちらにもおのおのの個性を認めており、男女に対する公平な感覚も感じられ嬉しかった。
 印象に残った死はいくつもある。たとえば30歳にして肺結核で亡くなったエミリ・ブロンテ。妹エミリは体が急速に病み衰えていくのに、性格が異様に強くなっていくようだという姉シャーロットによる描写。死ぬ日の、目の光がぎらぎらとしていた様子。ちなみに姉シャーロットは9年後に風邪をこじらせて亡くなる。
 そしてナチス副総統、空軍元帥ゲーリングは、敗戦後に連合国側により裁判を受けさせられるため、独房に入れられていた。連合国側は彼に自殺されることを警戒していた。しかし厳重なチェックをかいくぐり、ゲーリングは自殺した。わざと発見されるための囮の毒薬を用意しておき、そしてさらに隠し持っていた毒薬で、敵を出し抜いて死んだ。だがゲーリングのこの死は、東京裁判にある影響をもたらすこととなる……笑ってしまうのは悪いような、不謹慎なような、しかしやはり黒いユーモアを感じずにはいられない影響である。
 中巻、下巻も楽しみ。
 傑作。