獣の記憶/ニーナ・ブラジョーン
作者ニーナ・ブラジョーンは、スロヴェニア出身。大学でドイツ文学とスラブ文学を専攻し、現在ではドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州で暮らしている。こ『獣の記憶』もドイツ語で書かれたようだから、この作品はドイツのミステリと読んでもいいのだろうか。
前置きが長くなったがこの作品は、18世紀のフランス、ジェヴォーダン地方で実際に起きた、狼、あるいは謎の獣によって次々と人が、特に女性や小さな子供が次々と惨殺された事件を題材として使っている。
ゴシック小説の陰惨さと、エンターテイメント活劇の愉快さをともに併せ持つ物語である
熱血漢の青年と美女との身分違いの恋があり、陰謀を巡らせる貴族たちがおり、逞しく生きる庶民たちの姿があり、なにより忌まわしい獣の正体の追跡とその獣との戦いがある。
面白く読了したのちもなにか虚無的なものを感じるのは、作中には書かれないもののこののちのフランスには大きな革命が待ち構えているで、貴族や権力者の今後を考えるとなんとも言えない気分になるからだ。
2015年の海外ミステリとしては、クリスチアナ・ブランド『薔薇の輪』、サイモン・ベケット『出口のない農場』、そしてルース・レンデル『街への鍵』がベスト3だったが、アーナルデュル・インドリダソン『声』、そしてこの『獣の記憶』も合わせてベスト5としたい。
余談だがクリストフ・ガンズ監督『ジェヴォーダンの獣』というそのものずばりのタイトルの映画があるのだが、あちらはいま一つ面白くなかった。
この小説は傑作。当方の嗜好にもろにはまった。
ジェヴォーダンの獣に関するウィキぺディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B4%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%B3%E3%81%AE%E7%8D%A3