FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

彼女のいない飛行機/ミシェル・ビュッシ

 このところ数の上では、北欧勢やドイツ勢、そして英米勢に圧されつつあるが、強烈な個性で読者を眩惑させているのがフレンチミステリである。『彼女のいない飛行機』もその一冊だ。
 墜落した飛行機からたった一人の生存者として見つかったのは、生後間もない女児だった。DNA鑑定がない時代、女児の身元はどちらか分からなかった。すなわち富豪の娘か、凡庸で慎ましい家柄の娘か。
 十五年が経過し、少女は成長し、そしてDNA鑑定の技術が発達し、少女の正体が解き明かされる機会が来た。しかしここに至り(ここに至る過程でも)謎めいた殺人事件が発生していた。
 事件の中心人物である少女の心情はほとんど描かれない。描かれるのは少女の正体を追う探偵の心情であり、陰謀を巡らす名家の人々の心情であり、実妹かもしれない少女に激しい恋をした青年マイクの心情である。またやはり実妹かもしれない少女に異常なほど執着し、男言葉で話し、エキセントリック極まりない令嬢マルヴィナの心情でもある。訳者による解説でも触れられていたが、マルヴィナは本当にインパクトのあるキャラクターだった。
 英米(最近では北欧やドイツも含む)のミステリを読みなれた身としてはどうもアクが強く、違和感をかすかに覚えるが、終盤近くで明かされるDNA鑑定の結果について感じた不思議さ、そして殺人事件の真相と強烈なクライマックスのシーンはやはり印象に残る。
 毛色の変わった傑作。