FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ババドック 〜暗闇の魔物〜/ジェニファー・ケント監督

 時折ホラー映画に出てくる小道具に、はっと目を奪われる。ホラー以外の映画に出てくる小道具ももちろん見惚れることはあるのだが、このジャンルに出てくる、よくできた小道具には不吉で妖しい美しさがある。
 ジェニファー・ケント監督『ババドック 〜暗闇の魔物〜』にもそんな小道具が登場する。ヒロインとその幼い息子が読む絵本なのだが、この表紙が真紅の地に漆黒の文字。ゴシックだ!そしていわゆる「絵が出る絵本」なので絵本の中の怪物は立体的に飛び出してきて、ぎこちないが動く。
 この素朴かつ繊細な線で描かれる「登場人物」たちがとても怖い(「登場人物」と書いたが、描かれているのは人ではない……)。
 ジェニファー・ケントはオーストラリア出身の監督。ということは、明言されていないがこの映画の舞台もオーストラリアなのか?
 息子サミュエルが生まれた日、夫を交通事故で失ったアメリア。高齢者用の施設で働き、息子との生活を支えるが、問題は愛する息子にあった。空想にふける性質だったのはいいがしばしば攻撃的な行動を起こし、同級生を含め他人の子供に怪我を負わせる。
 その問題行動のためついに通ってきた学校を追い出され、アメリアは息子と二人きりで生活をすることになる。あからさまに他の子供とは違っており、とても育てにくい息子との二人きりの生活だ。サミュエルの暴力のおかげで、それまで味方だった人間まで離れていく。
 ストレスのあまりアメリアは不眠症となり、精神の均衡を崩していき、愛しているはずの息子に殺意さえ感じるようになっていく。そしてサミュエルはますます絵本の魔物ババドッグに怯えるようになり、アメリアはさらに追い詰めらていく。
 ストーリー自体はありふれたお話なのだが、主役二人の熱演もあり、忘れがたい傑作に仕上がっている。
 アメリアが目覚めると、地下室で……のシーンは怖かった。
 傑作。