国王陛下の新人スパイ/スーザン・イーリア・マクニール
『チャーチル閣下の秘書』、『エリザベス王女の家庭教師 』に続くマギー・ホープ・シリーズ三作目にして、シリーズ最高傑作。
冒険小説、スパイ小説が苦手な当方にも存分に楽しめた。これまでも知的で快活なヒロインが活躍する軽妙なシリーズだったが、今回はシリアスさが違う。これまではマギーの活躍もいわば自分の陣営にいて敵を迎え撃つ立場にいたが、今回は女性スパイとして初めて、単身で適地ドイツに乗り込むのだ。マギーも打ちのめされるが、読者も打ちのめされるはず。なにせナチスの蛮行の一端……ほんの一端でもおぞましい……に触れるから。
そしてマギーは、スパイとして生きることには不可欠かもしれない行為に、初めて手を染める。これからもスパイで生きることを選択したならば、同じことを繰り返さなければならないだろう。
そしてなんと言ってもマギーの前に立ちはだかるのは敵国や敵国の人間ばかりではない。マギー自身の過去にも大きく関わる、とある邪悪な人間が現れる。もう一人、マギー自身の過去にも大きく関わる人間が出て来るが、そちらは今後心強い味方になるかもしれない。なってほしい。
また今回はイギリス人スパイであるマギーばかりではなく、アプヴェーア(ドイツの諜報機関)の高官を母に持つ、若い看護師エリーゼの視点からナチスの非道とそれに抗おうとする人間たちが描かれ、エリーゼはいわば第二のヒロインとして活躍する。
実に不気味な余韻を漂わせながら、物語は幕を落とす。マギー個人にとってはアドルフ・ヒトラーより恐ろしい敵が身近にいるのだ。今後の激しい戦いが予想される。
傑作。