そして医師も死す/D・M・ディヴァイン
これだから英国ミステリは良いんだ、と言いたくなるような作品だ。
共同経営者だった年長の医師が死んだ。その死は殺人だったかもしれない。このシンプルな設定でよく読ませる。
出てくる人間、本当に誰もかれもがうさんくさく感じられる。
特に疑惑の目を向けたくなるのはギルバートの若く美しい後妻エリザベスだ。
社会的な地位の高い、年齢の離れた男性に嫁いだ美女。この婚姻だけで、彼女は周囲の人間から、そして読者から「お金目当てですか?」と色眼鏡で見られる存在である。
そしてエリザベスという女性の本質をいっそう掴みにくくさせているのが、彼女が一部の男性から嫌われている点である。ちなみにエリザベスを嫌っている男性というのは、まともな(まともに見える)男性達である。
女性に嫌われる女性というのは、イメージしやすい。型に嵌らない言動のため、保守的な男性から嫌われる女性というのも想像がつく。
しかしエリザベスはどちらにも当てはまらない。かと言って悪女だという決定的な証拠もない。
このエリザベスは、なにものかに生命を狙われているかもしれないと主張している。エリザベスは自分を狙う犯人に見当がついているとして、ある人間の名前を上げるが、うさんくさい女性がうさんくさいとして挙げている人間は、本当にあやしい人間なのか。頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる。
そしてそのクエスチョンマークは、きれいな謎解きで解消されることとなる。
ある意味では殺人事件の謎解き以上にシビアなラストが、非常に印象に残る。この辛辣な人間観察が、作品をいっそう面白さを与えていることは言うまでもない
秀作。