FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ブラインド/アン・サンホ監督

 当方には年が明けて最初に見る映画は必ずはずれ、といういやなジンクスがあるのだが、これが嬉しくも破られた。盲目の美女と犯罪者との死闘と言えば、テレンス・ヤング監督、オードリー・ヘップバーン主演の『暗くなるまで待って』が思い出されるが、この『ブラインド』にも、まったくの暗闇の中では視覚障害者の自分の方が有利だと判断して戦う場面がある。
 警察学校の学生だったスアは、三年前同じ孤児院の出身で姉弟のように育った青年を交通事故で殺してしまい、みずからもも視力を失う。それ以降は盲導犬とともに暮らしていた。
 ある雨の夜、スエは自宅に帰るためタクシーに拾うが、途中で運転手が引き起こした事故に巻き込まれる。運転手である男性は、犬を轢いただけと言ったが、スエは確かに女性の悲鳴を聞いていた。運転手にうさんくさいものを感じていたスエが問いただすと、タクシーは逃げてしまった。これがスエと女性連続誘拐犯との命がけの攻防の幕開けだった。
 “夏のホラー秘宝まつり”で上映された作品だが、超常現象などは出てこないスリラー映画である。しかしとても不気味で怖いのだ。
 例えばスアが乗り込んだタクシーで、規則正しく並んでいる街灯のため、猟奇殺人犯である運転手の顔の一部が光で照らされてはまたすぐに闇に沈む、その繰り返しの場面。
 それからようやく証言を信じてくれた刑事とともにある事件現場に行く場面があるのだが、刑事は話を聞きに車を出てスアは車の中に残る。そのスエを車の外からにやにや笑いながら覗き込むのは、あの殺人鬼……しかしスアはまったく気付かない。ここは本当にぞくっとした。
 また地下鉄の駅の中での、視覚障害者ではうまく使いこなせないのでは思われるものを用いて、ある登場人物と協力しての逃走劇など、見所はたくさんある。
 地下鉄の駅内にカメラは設置されていないのか(もしされていたら、すぐ犯人の容姿が特定できる)、そして相手が何人もの人間を手にかけている狂人だと分かっているはずなのに刑事たちが単独行動しすぎるのがおかしいが、しかしそれらもささいな欠点だった。
 傑作。

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