FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

闇に香る嘘/下村敦史

 久しぶりに読んだ江戸川乱歩賞受賞作……と書きかけて、第58回高野史緒カラマーゾフの妹』を読んだことがあることに気付いた。
 中国残留孤児だった兄と、日本に帰国できたものの幼児期の栄養不足が祟ったのか、盲目となった弟。ともに高齢となった二人は、弟の孫に腎臓を移植する必要が生じたため、向かい合うこととなる。
 顔を合わせた兄は、弟の記憶にある兄とまるで別人だった。幼い頃は心優しかった兄が利己主義者のように感じられる。弟はふと疑惑を感じる。兄だと名乗っている男は、本当に兄なのだろうか、と。日本で豊かな生活を送るため、中国残留孤児を装って来日した別人ではないかと。自分自身の疑惑の裏付けのため、盲目と高齢というハンデを抱えつつ、関係者の間を訪ねて回る。
 第60回江戸川乱歩賞受賞作。
 単純極まりない「違うのは兄ではなくて自分」という事実を格にしながら、豊かなサスペンスを生み出している。この事実を読者が知った途端、肉親を含めた他者の言動の意味がまったく変わってくるのもお見事。
 作者は過去四回江戸川乱歩賞候補になっている。その中でも面白いものがあれば、ぜひ書籍にして欲しい。

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