さよならブラックハウス/ピーター・メイ
文芸作品とミステリの境界線上にあるような作品。文章は美しく描写は繊細で小説好きは楽しめるが、ミステリ好きにはどうかなと首を傾げていたが、ラストで明かされる動機と犯人像には膝を打つ。
どこかトマス・H・クックを連想させられると言えば、翻訳ミステリのファンには作風がなんとなく分かるのではないだろうか。もっともこの『さよならブラックハウス』は決して明るい話ではないが、それでもクックの作品ほど陰鬱ではない。
フィンはかつて捨てた故郷へ、イギリス本土から離れた島へと帰ることとなった。様々な苦い思い出のある故郷だった。親友とは決別し、最愛の女性とも別れることとなった。しかし、職務上足を向けないわけにはいかなかった。フィンはエディンバラ市警の刑事であり、惨殺死体と発見された被害者とも知り合いだったから。
被害者は、フィンも昔からよく知っている、土地の嫌われものだった。
苦さと甘さが入り混じった追憶と、フィンの現在の捜査とが交互に語られる。
島の伝統行事である、ある鳥を他の男達と狩ったときの少年時代の記憶、そのときに起きた出来事が、あたかも成長に不可欠な通過儀礼の儀式のように、フィンとこれまでの人生とそれからの人生をすっかり分けてしまうことになった。そしてフィン自身もこのときの記憶が蘇るのをひたすら恐れている。
犯人がひたすら不憫な作品である。