FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

逃げる幻/ヘレン・マクロイ

 ヘレン・マクロイの作品の中で、これほどの作品がまだ訳されていなかったとは驚きだ。
 舞台は荒涼としたスコットランドの荒野、当地の妖精伝説などを交えて卓越した文章力が醸し出すのは怪奇小説的、ゴシック小説的なきわめて妖しい雰囲気、そして最後に読者の前に現れるのは、切れ味の鋭い本格ミステリとしての解決である。
 第二次世界大戦におき、ドイツが降伏したのちのヨーロッパ。予備役大尉にして精神科医ダンバーがスコットランドで出会ったのは家出を繰り返す少年の噂だった。ダンバーは、偶然当の少年ジョニーと出くわすが、彼はなにかにひどく怯えており、がむしゃらにダンバーにとびかかってきた。
 ジョニーは実は養子で、両親と死に別れ、単身スコットランドで児童疎開していた際、ドイツ軍に襲われ、両親のときと同じく、同じ状況の子供達の中で一人生き残ってしまったという過去を持つ。ジョニーの怯えは、その過去に関わりがあるのか、あるいはまったく別のことが原因なのか。やがて少年の周囲で殺人事件が発生する。
 精神科医にして名探偵ベイジル・ウィリングが活躍する一冊である。
 傑作。
 心身の調子があまり良くないのだが、良き海外ミステリ、国産ミステリ、海外ドラマ、海外映画にたくさん当たって嬉しい。