FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

経眼窩式/植田 文博

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 タイトルは「けいがんかしき」と読む。なにが眼窩を経るのかは……読んでからのお楽しみ。
 超常現象は一つも出てこないが、発散されるこの恐怖、このおぞましさ、すでにホラー小説の領域に足を突っ込んでいる。いや作中に登場する手術が実際に行われていたことを考えれば、下手なホラー小説よりよほど怖いかもしれない。読んでいると、眼球と骨の間の柔らかな部分が引き攣り痛くなってくる。
 第6回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作品で、劇薬のような小説だ。選者島田荘司に賞賛された新人離れしたうまさが、そのまま読者への精神的ダメージとして跳ね返ってくる。島田荘司の評から読みだしたため、ある登場人物の末路は分かっていたが、それでも作中で触れるとショックを受けた。
 かつて父から受けた暴力のため、片目が義眼であることに劣等感を抱いている若いOL。彼女はある日、幼い頃に蒸発した父親の姿を見かける。古いアパートで見かけた父は変わり果てていた。自我をすっかり失ったような様子で、さして必要だとも思えない、そして苦痛を伴う医療を、延々と受け続けていたのだ。そしてそうした人間は、父親ばかりではなかった。生ける屍のような彼らの背後には、ある病院と医師の一族、そして悪鬼のような医師が関わっていた。
 傑作。
 今年の国内ミステリのベストスリーは、若竹七海『暗い激流』、米澤穂信『満願』、そして植田 文博『経眼窩式』の三作で決まりそうだ。

↑ミステリ短編集。どちらも傑作。